日記特別編その7

2003年夏の旅から2

自転車でリノ村をいく


 2003年にはデンマークへ行く予定はなかったのである。しかし、その年の3月頃かに友人のオヴェ(コースゴール、デンマーク教育大学教員、邦訳に大著『光を求めて』東海大学出版会がある)から、「今年は Image of Asia という年なので、秋頃にいろいろな企画がある。インド、フィリピンからのゲストとともに、ミツルも講師として招待したい」とメールが来て、結局行くことになった。招待なので、名誉なのだが、英語での講演となるとどうしても二の足を踏む。質問などに臨機応変に答えるだけの語学力がないからだ。

 デンマークへ行く前にドイツをまわって(日記特別編その6)、その後友人たちに会うために少し早めにデンマーク入りをした。9月1日には、ヤコブたちと会い、3日には Ryホイスコーレにいってリーネに会うが、今回は試しにBed & Breakfast に泊まってみた。というのも、デンマークの夏に森の中や湖畔にある安い Bed & Breakfast に滞在して、散歩したり、本を読んだり、ボートをこいだりという優雅な休暇をとってみたいと前から思っていたのである。

 ネットで調べると滞在予定のシルケボーに二件あったので、メールで出せる方の一軒を予約した。老夫婦がやっている感じで、「英語が下手で申し訳ない」と何度も書いていた。やりとりの中で、期待していた湖畔の近くではなく、街から相当離れた田舎の方にあることがわかり、環境的には思い描いた場所ではないので、ややがっかりだったが、街まで車で迎えに来るといってくれるなど、対応が親切だったので、そのまま一泊だけ利用することにした。

 親切にも Ry ホイスコーレまで迎えに来てくれることになり、当日待っていると、やせ形で小柄なデンマーク人のご婦人がやってくる。この人が女主人のヘアディスだった。よたよたした車の運転で宿に向かう。周りは畑だけの殺風景な場に宿はあったが、当初の予想を下回るロケーションに、これでは散歩や森での読書などはとても楽しめないなと思えた。前日滞在した Ry ホイスコーレは目の前がフィヨルドの河があって、いかにもこの地方の環境をもっていただけに、よけい落差が大きかった。

Bed & Breakfast

 あてがわれた部屋は娘さんが使っていたという。Bed & Breakfast はだいたい子どもが独立して部屋があまったので、使うというものが多い。日本流にいえば民宿であるが、税金がかかり宿代の高いデンマークではユースホステル並みの値段なので、Bed & Breakfast はお勧めである。

 主人であるライフに挨拶をして、荷物を置くと、ヘアディスがお茶を勧めてくれる。居間でコーヒーを飲んで少し話した。ライフは英語が話せないというので、主にヘアディスと話す。娘夫婦は日本に行ったことがあるそうで、日本のことは彼女から聞いたという。彼女は地方の新聞社につとめているそうだ。日本人の客はもちろん私が始めてである。メールで感じた通り、素朴で親切な対応で好感がもてた。

 自転車で外に出る。少し行くとリノという小さな村があった。ほのぼのした気持ちになるような小さな村である。ここはまだきれいだが、宿はそこからも離れているので、夏ならともかく、冬はほんとうに寒村という言葉がぴったりだろうなと思うようなところにある。おまけにこの日はやや肌寒く曇り空だったので、気持ちは今ひとつだった。
 
 帰って、少し休み、起きて講演用の原稿書きなどをして、持参した夕食を食べる。田舎であることは知っていたので、リュにいたときに豪勢なデンマークサンドを買っていたのだ。その後ゆっくりしていると、ヘアディスがドアをノックして、夕食を食べないかと誘ってくれる。商売でやっている Bed & Breakfast なので、夕食などを食べさせてもらうことはほとんどないのが当然なのだが(でもたまにあるのが素人がやる Bed & Breakfast のよさ)、このときはやはり予想したとおりのいい人たちだったなと自分の勘が的中したことがうれしかった。食事はしたのでもういいが、食後のコーヒーなら喜んでという旨を伝えると、そのときにまた呼びに来るという。

 しばらくして呼びに来たので、居間に向かう。ライフがほとんど食事を終わりかけていた。質素ではあるが、デンマークサンドよりはこちらが断然よかったなと思えるおいしそうな食事だった。コーヒーとケーキをいただきながら、いろいろと話す。父から伝わる東洋の磁器の骨董品を見せて、漢字が書いてあるがこれはどこのものかわかるかと聞く。日本製で、幕末の時代のものだった。これは価値がありますよというとすごく喜んだ。価値がある云々よりもどこのものかわかったことがうれしかったようだ。

Leif とHerdis

 かつてはヘアディスは福祉関係で働いており、ライフは事業を営んでいた。その頃はシルケボーの街中に住んでいたとのことで、退職を機に前の家を売り、新たに郊外の農家を購入してここに来た。人里離れた田舎で住むことを望んでいたらしい。改築をして、広いので Bed & Breakfast として運営を始めた。ヘアディスはまだ老け込むには早いと考えたらしい。それが10年前のことである。始めた当初は地元のツーリスト・インフォメーションや旅行社などに通って、宣伝に努めたということだ。その甲斐あって、今はドイツやイギリスからサイクリング客やドライブ客が夏にはたくさん来るという。

 話す中で、ヘアディスがそのやせて眼鏡をかけている感じが私の亡き母に少し似ている感じがした。夫のライフはグルントヴィによく似ている。翌日私を迎えに来たクリスチャンにそういうと「確かに」と納得したほどだが、しかしビジネスマンであったライフはビジネスに否定的なグルントヴィは嫌いらしい。宿にいるというよりも、デンマーク人の一般家庭に招かれておだやかな歓談をしている感じがとても心地よかった。

宿の周辺

 翌日は天気もよくなり、近辺を散歩するとひなびたデンマークの農村という感じで悪くなかった。しかし何といっても、ヘアディスの親切さが一番印象に残るもので、旅人にはアクセスは不便ではあるけれども、またここに来たいと思うような暖かい宿だった。

B&B Silkeborg
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8600 Silkeborg
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