日記特別編その9

2010年音楽の旅その2

プラハ城とヴァルタヴァ川(モルダウ川)

 3月16日からエッセンを離れ、小旅行に出た。まずはドレスデンに飛行機で行く。本当はデュッセルドルフから一気にプラハまで飛行機で飛びたかったが、よい便がなかった。日本の旅行社に訊くと5万円という。しかしそういう正規の航空券を買わずとも、今はヨーロッパでも格安便がたくさんある。自分で探してみると、直行便はなくとも、デュッセルドルフからドレスデンまで運賃わずか1ユーロ、オイル・サーチャージ25ユーロ、合計26ユーロ(約3230円)という便があった。

 Airberlinという格安会社である。チェコ航空のデュッセルドルフ・プラハ往復便も3万円くらいであるが、これは片道だけは買えない。列車もドレスデン・プラハ間23ユーロ(約2850円)という通常料金の三分の一のものを探し、合計で49ユーロ(約6080円)でデュッセルドルフからドレスデンそしてプラハまでの移動費がすんだことになる。

 Airberlinはあまりに安いので、サービスが悪く、機内での飲み物などがみな有料でお金をとられるシステムになっているのではないかと一抹の懸念はあったが、乗ってみると日本の国内線と同じで、飲み物は無料、スナック菓子もついて、サービスも全然通常のヨーロッパ便と変わりなかった。

 ドレスデンについて予約したペンションに行く。このペンションも35ユーロ(4342円)と格安で、しかも交通の便よし、部屋はきれい、朝食は豪華、宿の女将さんは美人と申し分ない場所だった。私がドイツ語ができると聞くと喜び、やはり英語をしゃべるより楽だといっていた。

ペンションの部屋

 ドレスデンは有名なオペラ座ゼンパー・オペラがあるので、ここに行きたかったのだが、1月初めの時点からプレミアでもないのに、チケットが完売で予約できなかった。当日券がないかと出かけて、アーベント・カッセ(当日券売り場)で尋ねてもないという。行ってみてわかったが、劇場前を観光バスが30台以上も取り囲んでいる。どこかのオペラ鑑賞ツアーで大量に押しかけてきているからだった。

ゼンパーオペラ

 ダフ屋が買わないかと声をかけてきて、場所を訊くと一番後ろの席で50ユーロという値段。これは法外な価格なので、即座に断る。ここは一番いい席でも70〜80ユーロで買えて、最後の席は30ユーロ程度だからだ。

 オペラは諦めて、夜のドレスデンを写真に撮ることにした。その後、パキスタン出身のケバブの店で夕食を摂る。日本人ということで「同じアジアの人間には親近感を感じる」といっていろいろ笑顔で話しかけてくる。まるで旧知の人間と会話しているような雰囲気になり、楽しい夕食になった。

夜のドレスデン中心部

 翌日はドレスデンの絵画館アルテ・マイスターに寄り、ゆっくりと名画を堪能した。前回は2003年に来たが、そのときはあまり時間がなく駆け足になった。今回は余裕があるので、すべての絵を見ることができた。あまり有名でない画家の絵でもいいものを発見する楽しみがある。

 ここにはフェルメールの「手紙を読む女」と「取り持ち女」がある。前回もそうだったが、この絵の前にはいつも人がいない。日本ならすごい人だかりだろう。別にフェルメールが人気がないわけではなく、あとで寄ったウィーン美術史美術館では「絵画芸術」一枚のために特別展示をやっていて、たくさんの人が押しかけていた。しかし、なぜかここでは人だかりにならない。一つにはこの美術館が一番の売りにしているのが、ラファエロの「サンシストの聖母」なので、そちらにみなが行くということもある。前回と同じく、一人で仕切りもない絵の前に立ち、じっくりと対面して楽しんだ。ぜいたくな時間である。

絵画館に来ていた修学旅行の生徒たち

昼食のグーラッシュ

 お昼は電停前の安いカフェでグーラッシュ(牛肉の煮込み料理)を食べる。すぐ隣はドレスデン・フィルハーモニーの本拠地だが、残念ながら寄る時間はない。すぐに駅まで行って列車でプラハへ向かった。

 プラハの宿は郊外のペンションで、ここも一泊500コルナ(約2440円)という安さで三泊する。

 着いてすぐにプラハ交響楽団(FOK)のコンサートに行った。有名な市民会館の「スメタナ・ホール」でのコンサートである。FOKは1月に佐世保で聴き、そのうまさに改めて感心していたが、期待していた指揮者のマーカルが病気で代理指揮者になったのが残念だった。マーカルはマーラーを得意にしているので、この日の1番の演奏を楽しみにしていたのだ。ズデニク・マーカルはテレビドラマ「のだめカンタービレ」でヴィエラ先生役をして、日本でもおなじみである。このスメタナ・ホールも、ドラマで舞台となり、そして4月公開の映画の後編でもコンサートの重要な舞台となっている。しかし、クラシックファンにはそれよりも「プラハの春音楽祭」のメイン会場として知られている場所だ。

スメタナ・ホールのある市民会館

スメタナ・ホール(開始前)

休憩時のFOK(プラハ交響楽団)

スメタナ・ホールの装飾画

 FOKの演奏は大いに楽しめたが、これまでと違ってやはりマーラーは難曲なのか、やや音が乱れたところもあり、完璧とまではいかなかった。指揮者の交替もあるかもしれない。瀟洒なスメタナ・ホールでのコンサートということだけでも満足はできたが、一番いい席に座ってわずか3000円というのも、本場のよさである。ここにかぎらないが、演奏時間以外は自由に写真を撮っていいというのもありがたい。

 翌日の18日は、昼間はプラハ観光をし、夜はチェコ・フィルのコンサートに行く。今度はスメタナ・ホールと並ぶ最高級の会場、ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールである。ここも「のだめカンタービレ」に出てくる。2年前はスーク・ホールでのコンサートだったので、このメインホールでのコンサートを楽しみにしていた。

 デュッセルドルフの会場と同様で、そんなに大きくはない。一回の平土間のまん中の後ろよりという一番よい席(席を尋ねた案内のスタッフも「ここは一番いい席ですね」と認めていた)で、ここもわずか3000円。去年秋のチェコ・フィルの来日公演では一番いい席が25,000円、最安の悪い席でも5,000円だから、何かそれだけですごい得をした気になる。

ルドルフィヌム入口

カーテンコール時のチェコフィル

ドヴォルザーク・ホールの天井

 演奏はたいへんすばらしく、今回のコンサートの中ではここが白眉だった。メインの曲目が「幻想交響曲」でデュッセルドルフと同じだっただけに、如実に力量差がわかる。さすがに雑誌などで世界のオーケストラベスト10の中位に位置するだけあって、技術・表現どれをとっても申し分ない演奏だった。去年聴いたゲヴァントハウス・オケに勝るとも劣らないうまさだった。何ともいえない満足感にひたり、夜の美しいプラハの街を幸せな気分で歩きながら戻ることができた。

たそがれのプラハ

夜のカフェ

旧市街広場

火薬塔

 3日目の昼は、前回行けなかったチェコ国民の魂の故郷、ヴィシェフラッドに行ってみた。ここはスメタナの交響詩「わが祖国」の冒頭の曲でも歌われている場所である。チェコの民族意識はこことフス派の抵抗の拠点タボールに根ざしているともいえるので、ぜひ寄ってみたいと思っていた。場所は何ということのない郊外の墓地公園みたいなもので、スメタナ、ドヴォルザーク、チャペックなどのチェコの有名人のお墓がある。

ヴィシェフラッド

ドヴォルザークの墓碑

プラハ国立オペラ座

 夜は、プラハ国立オペラで「魔笛」を観た。2年前にエステート劇場でみた「ドン・ジョヴァンニ」がとてもすばらしかったので、大きな期待をもって行ったが、予想に反して私にとっては今ひとつ趣向が合わなかった。

 「魔笛」はもともと庶民向けで、子どもでも楽しめる要素があるのに、今回のそれは大蛇も動物もすべてバレエで表現し、道案内の三人の子どもも大人の女性が演じるという演出になっていた。これも一つの演出スタイルとして意味はあるが、せっかく子どもの観客も来ているのに、万事が大人向けではがっかりである。あと若き王子であるはずのタミーノが、ハゲかけた男性ではどうしても違和感がある。カツラでもかぶればいいのだが。ヒロインのパミーノやもう一人の主役パパゲーノは歌も容姿もイメージ通りでよかった。

 とはいえ、観ているうちに期待を裏切る場面が多かったので、前半が終わり、休憩時間になった時点で戻った。どうせ最後まで見てもいらつくだろうと思ったからである。実力はあり、またオペラ座も豪華で、決してこんなものではないと思うので、また別の演目があれば、見てみたいと思う。(その3へ続く)


最新の日記は左の「日記」をクリック
[日記特別篇][日記特別篇その2] [日記特別篇その3] [日記特別篇その4 ]
[日記特別編その5]
[日記特別編その6]
[日記特別篇その7][日記特別篇その8]
[日記特別篇その9][日記特別篇その10]
[日記特別篇その11]
[日記特別篇その12][日記特別篇その13][日記特別篇その14」

inserted by FC2 system