木漏れ日のひかりは川に降りそそぐ 2 Essen-Waldneysee

1、

 5月1日はグドルンの誕生日だった。そのとき私は彼女のことは殆ど知らなかった。

5月23日、聖霊降誕祭。彼女は私の隣にいた。
エッセン郊外のバルドナイゼー湖畔。あたりの淡い縁は少しずつ濃さを増していたが、それでも日本の照葉樹林のむせかえるような厚味はない。枝々の合い間から青空を断片的にのぞかせる樹々の下を二人でくぐり抜けていく。

  彼女と歩く私はみじめで貧相に見えたに違いない。だって彼女は178センチの長身。モデルのようなスラリとした肢体。向うから来る、波立つ湖面 に散乱する太陽の反射光がまぶしく輝き、それを背景に彼女のジーンズ姿の肢体がシルエットとなった。私をふりかえるたび、絹糸のようにこまやかな金髪がサラサラ音を立てたかのように揺れる。ライト・ブルーの瞳が私をじっと見つめたとき、私は己れの全存在が吸い込まれる畏れを感じた。

 彼女は私のドイツ語の教師。年はあまり私と変わらないはずだが、際だつ美しさが一層若く見せていた。その頃私は週1回、ボトロップという隣町のフォルクス・ホッホシューレ(公民館、カルチャーセンターみたいなもの)のドイツ語講座に通 っていた。

?君が僕に対して気をつかってくれるのは、君が外国人一般に対して優しいから?
?ううん。そうじゃないわ。ただ関心のある人にだけよ。
?僕が君の関心を惹くのは、日本人(という、一般のドイツ人には疎遠で珍しい存在)だから?
?違うわ。私は日本にはちっとも興味がないの。あなたを除いては…。

彼女は私に、ドイツ語講座の中で、日本についてのスライドを見せることを勧めてくれた。

?ドイツでは日本の評判は良くないわよ。ノルマ(フィリピン人の女性、講座の受講者の一人)は、日本がフィリピンを侵略したこと、日本では男性が女性を押さえつけていることなど話してくれたわ。

  その当日、私は、南九州の人々の生活と風土を描いたスライドを仲間に見せた。だが、「日本は朝鮮半島を侵略したじゃないか!」と糾すイラン人のアリ、「クジラを滅ぼす日本!」とつめよるガーナから来たレックスたちを納得させるまでには至らなかった。

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