Brugge

プロムナード

?心象のはいいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの詔曲模様
・…(中略)・…・・
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりする
おれはひとりの修羅なのだ−
(宮沢賢治「春と修羅」より)

 五月の初め。
 私はデュッセルドルフの王宮公園に佇立していた。この街と日本企業の深い縁からか、ドイツにはめずらしく、ソメイヨシノ、山桜のたぐいが、ナラやブナなどに混じって植えられている。空は澄みわたる青さだ。私の周りの空間は、木々と芝生との淡い緑に覆われている。白樺の幹の白さとその葉のコントラストはたとえようのないほどに美しい。足許にひろがる芝生にはマーガレットに似た白い小さな花が一面 に - 粗密の差はあれど−咲きこぼれている。これを踏まないようにして歩くのには工夫を要した。ほんのりと冷たさのまだ残る風が、私の頬を切って抜けていく。光も空も張りつめて、一片の弛緩もなかった。涙とは無縁の透明な哀しみが私を襲った。

   −俺はいまたしかに、ドイツのこの地に自分の足で立っている。

  もうひと月も過ぎたというのに、そんなことを初めて実感した。ウォークマンをとり出し、おもむろに歩き始めた。デュッセルドルフの偉大な息子、ハインリッヒ・ハイネの記念碑のかたわらを通 り過ぎるとき、ヘッド・フォンからは、ザ・バーズの「自由の鐘」が流れていた。

−…癒えることのない傷を持つ者の
痛みのために
鐘よ鳴れ
数えきれぬほどの、困惑し、罪を問われ
虐待され、薬に溺れた者たち、
さらに酷い状況にいる者のために
この全宇宙の追いつめられたすべての人のために
僕らは自由の鐘の輝きを見つめていた..................
(ボブ・ディラン「自由の鐘」より)

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